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Author: 空蝉ゆあん

君の温もり 泣き虫

last update Last Updated: 2025-05-16 23:30:00

 涙は枯れ果て僕は昔の夢を見続ける。

 目を閉じていないのに『見える』のはあの時の光景。

 虚ろな瞳が映すのは『あの人』の微笑みと…泣き顔。

 約束の地で待ちながら『いつかきっと…』と淡い期待を胸に抱く。

 瞬きをすると悲しくもないのに涙が溢れる。

 毀れる心の雫のように、いつまでもいつまでも夢幻の中で。

 「きっと迎えにいくから」

 悲しく微笑む『あの人』は幼い僕の心を置き去りにして消滅した。

 「まって行かないで」

 そう言えていたあの時とは違くて、今の僕はただの壊れたドール。

 どこを探しても見つからない、どうして?なんで?

 現実なんて見てもいい事ないから、あの時の思い出に揺られる。

 目を瞑れば…もう泣きはしない。

 そう思い込みながら、僕は待ち続ける。

 例えこの身体が朽ちようとも、関係なんてないから。

 「焔(ほむら)君は誰を見ているんだい?付き合っているのは僕だろう?」

 「…」

 「誰と僕を重ねているの?本当は誰を愛しているの?」

 「それは…」

 「…僕じゃないのだね。君の心の一番には誰もなれないのか…」

 「そんな事…」

 「僕を見て『誰』かと重ねないで…傷つく。君は誰も愛するべきじゃないよ」

 「…そうかもしれないね」

 「焔(ほむら)の心をさらった人以外…君を受け入れてくれると思うのかい?」

 「…」

 「その人の所に行きなよ。そうすれば一番いい」

 「…」

 「焔(ほむら)?」

 「…それ…が……出来たらいいね」

 「え」

 「もういいよ。理解してもらおうとは思わないから」

 僕を思い出して、君の心を支配するのは他の男なんかじゃないよ焔(ほむら)

 幼かった君を誑かして、地獄に叩きつけた僕を恨めばいい。

 そうしながら、君の心の中で永遠に生き続ける事が出来る。

 焔(ほむら)

 お願いだから他の人を愛さないで…。僕を独りにしないで。

 僕は女。

 名前は焔(ほむら)

 過去を断ち切れず、ずっと彷徨う弱者。

 涙は出ない

 もう出しすぎて…出なくなった。

 君は空の上で微笑む。

 「君の一番は永遠に僕だから…」

 水無月の呟き声が…懐かしい声が

 音になりながら、僕の心を縛り付けては離さない。

 毀れる涙を堪えながら

 止める術など分からない。

 風の音と共に君の記憶と共に、ここに祈ろう。

 いつまでもいつまでも…。

2

 「馬鹿だなぁ、また泣いて」

 「…悪かったわね、どうせ馬鹿で」

 「そういうトコ可愛くないのな。俺はお前のそういうトコ好きだけどね」

 「…え、何言って」

 「あはは、冗談だよ、冗談。本気にするなって」

 「…(こんな時に冗談なんて言う?普通)もういい」

 「ふくれるなよ、仕方ねぇな。よしよし」

 「…子供扱いしないで」

 こんな会話が愛しくて、居心地がよく思うのは俺だけだろうか。

 本音を隠しながら冗談しか言えない俺は卑怯かもしれない。

 それでもいいと思うのはあかりとの関係を壊したくない一心なのかもしれないな。

 このアンバランスな『友人』と言う関係性を。

 もう15年以上の付き合いになりながら、同じ時を過ごして、共に成長してきた。

 誰よりもあかりの事を横で見ていたのは俺…藍亜 箔なのだからな。

 いつも些細な事で泣いてくる彼女を見ていると、俺しか支える事は出来ないと思うんだよな。

 本音を言うと『他の男に渡したくない』てのが本心なんだけど。

 あかりの前では『優しくて素っ気ない幼馴染の箔』でいたいんだよ。

 「箔?聞いているの?」

 「…ああ」

 「もう、聞いてなかったでしょ?」

 「すまん」

 「あんたって本当バカなんだから」

 「おい。俺何もしてないじゃん」

 「鈍感」

 「なんだよ」

 「鈍い」

 「あかり」

 「うう…どうしてあたしが何度も告白しているのに、気づかない訳?」

 「…告白?」

 「あ」

 「なんの告白なんだ?」

 「もう…いいってば冗談よ冗談」

 俺は茶化すあかりの右腕をしっかりでも優しく掴みながら、耳元で囁く。

 「もう一度言って?」

 甘く囁く声は、まるで麻酔の味。

 「もう…」

 あかりの唇が俺の耳元に近づいてくる。

 そして息と共に、言葉が音のように流れる。

 それを聞いた瞬間、俺はあかりを抱きしめながら、再び囁く。

 「俺もだよ」

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